Basic Course2025への参加 世界基準の根管治療を目指して⑧
2025/12/08
今回は生活歯髄療法(VPT:Vital Pulp Therapy)についての講義でした。
はてVPTとは?歯髄療法?
実は日常臨床でVPTを行うか悩む場面に多々遭遇します。
例えば、痛みはないけど深いむし歯で歯髄(神経と血管を含む組織)ギリギリまで進行していて、むし歯を取り切ったときに少し歯髄が露出するケース。
転んだり、野球のボールがぶつかって歯が折れたり、欠けたりして歯髄が露出するケース。
これらのケースに関しては、歯髄に感染や炎症が生じてない可能性もあり、なんとか歯髄を保存し、歯を生きた生活歯のまま保存できないか、と試行錯誤するわけです。これがVPT。
VPTにも色々と方法があります。
- 歯髄が露出した部分を被覆して、歯髄を保存する方法:Direct Pulp Capping
- やや歯髄に感染が疑われる場合、一部分歯髄をとって被覆する方法:Partial Pulpotomy
- Partial Pulpotomy より確実に感染が疑われる歯髄をとるため歯冠部歯髄を除去して被覆する方法:Full Pulpotomy
- 歯髄に近接したむし歯を残して周囲の健全歯質で封鎖する方法:Indirect Pulp Capping
ちなみに、深いむし歯でズキズキ痛むような自発痛がある場合、コールドテストで痛みを感じ、痛みが持続する場合などは、歯髄が感染・不可逆性の炎症を生じているので抜髄(いわゆる神経を抜く処置)へと移行します。
我々、開業医であれば、歯髄を除去した歯、つまり失活歯の歯根破折(根っこごと割れてしまうトラブル)に悩まされることが多く、なんとか歯髄を保存できないか悩むわけですが、本来、VPTは若年者(20歳前半くらいまで)に適応される処置であるとのことでした。これは年齢を重ねるにつれ、歯髄の神経組織、血管組織が少なくなって回復能力が低下するためと言われています。
そう考えると歯髄の老化は20歳以降で生じてくるので、老化が早い部分と言えるかもしれません。
Bjondalらの研究によると成人のDirect Pulp Cappinngの成功率は31.8%、
成人のPartial Pulpotomyの成功率は34.5%です。
逆に小児患者におけるDirect Pulp Cappingの成功率は94.5%(Parinyaprom2018)、
小児のPartial Pulpotomyの成功率は96%となっています。
つまり小児や若年者であれば歯髄を保存できる可能性は極めて高く、成人では難しい処置となります。
でも、自分の医院ではどうだろう??
結構、成人にもDirect Pulp Cappinngしていますが、今のところ成功率は50%くらいと感じています。
これはカリエスの進行具合や、歯髄組織の活性の個人差によるものでしょう。
歯髄腔が小さくなって、組織の活性が落ちているような中高年では難しいかもしれませんが、症例を見極めてチャレンジする価値はあると思っています。
日本では頑張って歯髄を残そうとする各種処置の治療費が激安なので、いちかばちかやってみましょうとなりますが、すべての処置で高額な診療費がかかる米国では、成功率30%ほどの治療を患者に勧めることはありません。なのでそれほど熱心に研究は行われてないと思います。
しかしながら・・・、諦める事なかれ。
成人でも歯髄を保存できる成功率の高い処置が実はあります。
それは
・成人のFull Pulpotomyは98.4%の成功率(Taha 2018)
・成人のIndirect Pulp Cappingは98%の成功率(Jordan 1971)
健康な歯髄に見えても感染しているか、炎症があるかを科学的に判断する方法がないので、老化が始まっている、再生能力の乏しい成人の歯髄では、確実に感染・炎症歯髄を除去した方が成功率が高いのでしょう、これらの理由から成人のVPTではFull Pulpotomyの成功率が極めて高いのだと言えます。
Indirect Pulp Cappingは歯髄に近接したむし歯、これを除去したら歯髄が露出してしまう様な場合に、わざと一層むし歯を残して、その周囲はむし歯を取り切って封鎖し、むし歯菌の活性を止めて、進行を食い止める方法です。つまりは虫歯菌の飢え殺し。これは封鎖が何しろ大切なので、その後の補綴処置が重要になります。
おいおい、むし歯残すって?
と思われた方もいると思いますが、私は今まで乳歯では独自に考えて行っていた方法なので、成人でもうまくいくようなイメージがあります。
乳歯の場合、生え替わりまで保存できればOKなので、痛みがない深いむし歯はあえて攻めずに、周囲をとってサホライドを塗布して、塞ぐ、そうするとそのまま生え替わりまで保存できることがほとんどです。
VPTについて、
小児は自発痛さえなければ、どの方法でも歯髄を保存できる確率は非常に高い。
じゃあ、成人の場合はどうなのか、まとめると・・・。
・症例の選択によるかもしれないが、ほぼむし歯を取り切れた段階で歯髄が露出した場合:Direct Pulp Cappingを試みる。ただし成功率は半々。
・もっと確実性を求めるなら歯冠部歯髄を除去する:Full Pulpotomy
・そもそも歯髄に触れたくない場合は:Indirect Pulp Capping
という選択肢になるかなと思います。
繰り返しになりますが、Direct Pulp Cappingの成功率が低い理由は、歯髄までむし歯が及んでいる場合、どこまで歯髄の炎症が進んでいるか、科学的に判断する基準がないからです。
あ~、大事なことをもう一つ。VPTは歯髄を保存できる有用な方法になりますが、歯髄近辺を処置するので、ほぼ確実に歯髄の石灰化、狭窄化が生じます。つまりVPTがうまくいかないと根管治療(歯髄を取る処置)へ移行しますが、この根管治療が難しくなります。場合によっては根管治療を諦めて、外科的な処置に移行する場合もあります。
どの治療にもメリット、デメリットがあるということです。
長文になりましたが、歯髄を保存できるかの瀬戸際の処置が、顕微鏡使おうが、1時間かけようが、日本では1,200円くらいです(笑)。桁間違ってない??
歯髄を被覆するためのMTAの材料費にもなりません。
なので、歯髄を保存する、今まで述べたVPTを保険診療で行うことは今後、考えておりません。
値段設定はまだ考慮中で、根管治療の抜本的な見直しと合わせていきたいと考えています。
今は、顕微鏡つかって、NI-Tiロータリーファイル使って、バイオセラミック根管充填剤つかって、保険でやっていますが、今後は変えていきますよ。
今現在、当院で根管治療を受けたり、VPTを受けている方は、じつはかなりお得なのです。
まあ、今は修行中ということで。
さて次回(第9回)は「歯根端切除の序章、支台築造の実習」になります。
博多駅前はクリスマスのイルミネーションで華やかで、人も賑わっています。
これから冬場を迎え、飛行機が無事に飛んでくれるか心配・・・。



